▼確か吉川英治著『三国志』にあった話。主君が瓜の畑に靴を入れた時、部下を斬り殺した。「瓜田に履を納れず」―「李下に冠を正さず」と対をなす中国の教訓だが、主君がこれを破っても罰することはできない。代わって部下に償わせたというのだ
▼こうして君主の道をさとし、軍規の厳しさを兵に教えたというのだが、殺された部下が馬鹿を見たという思いがぬぐえなかった。県は、企業庁発注工事を巡る贈収賄事件で有罪判決を受けた男性が役員を務めていた2社への指名停止期間を8カ月間延長した
▼その後の聞き取りや裁判で、事件以外でも10件ほどの入札で技術指導を受けていたことが判明したからという。不正を埋もらせたままにしてはならない。新しく分かったなら、厳正に償わせねばならないのは当然だが、罪は贈賄側だけなのかどうか
▼なにしろ企業庁発の入札といえば、金額で同額になるケースが多く、総合評価の採点で決まっていることが外部監査で明らかになっている。くじ引きというふざけた方法もまん延していた。1社しか入札を申し込んでこない、すなわち、事前に談合されていると疑えるケースも少なくなかった
▼いうなれば、不透明な中で公共事業が進められていたと言えなくはない。みんなが李下に冠を正し、瓜田に靴を踏み入れていた。スモモを失敬し、ウリを盗んだのは逮捕された2人だけか。当初は「罪になるとは思わなかった」と言っていた
▼2人だけが、2人に贈った業者だけが馬鹿を見るのが古来からの習わしということかもしれぬ。