2024年3月17日(日)

▼埴輪(はにわ)は素焼きの土器で、中国の兵馬俑など同様、死者を埋葬する際の副葬品。この世に作り出した来世を模しているが、兵馬俑が現世と同じ生活を送るのに必要な品が並べられているのに対し、埴輪は葬送の儀式用とされる

▼国宝への指定が決定した松阪市の「宝塚一号墳出土埴輪」の土器・土製の計278点の中で花形でもある船形埴輪は写実性に優れて美しく、威儀具を備えた姿は首長の権威を象徴し「他に例がない」と評価される。一方で船首と船尾の極端なせりあがりや櫓の数などから実用品としては疑問もある。船は霊魂を冥界に送り出す乗り物で、途中の魔除けなどの装飾が施された、より精神的な副葬品との説が強い

▼だからといって実際の船との関係が断ち切られるものではないし、考え方や理想がむしろ鮮明になったりもする。学術的価値が損なわれることはむろんない。ネアンデルタール人が死者を埋葬した痕跡があることはよく知られ、人類と他の動物を分ける行動とされる。不老不死を願った中国・秦の始皇帝が壮大な兵馬俑を残したことを思い、その流れと無縁ではなかろう日本の埴輪が、冥界との境界として埴輪を設定していたことに、ある種古代ロマンを感じる

▼中国との関わりですっかり姿を変えたと見られるのは漢字だけではない。三角縁神獣鏡や銅鉾などはいまだに論争がある。中国伝来品を貴重品とあがめる習慣が神具などへ用途を変え、より独特の形状に進化したのかもしれない

▼舟形埴輪に込められた古代人の思いに迫ってもらいたい。