<検証・県予算>特殊詐欺対策 7年ぶり1000万円超え 求められる捜査成果

【スーパーの客(右)に特殊詐欺への注意を呼びかける警察官ら=昨年8月、桑名市内で】

保険料の還付などを名目に現金や電子マネーをだまし取る「特殊詐欺」。三重県警は新年度当初予算で、被害防止の事業費として1200万円を計上した。前年度比で約4割増。7年ぶりに1千万円を超えた。

予算が増えた背景にあるのは、被害の増加。県警によると、昨年中に被害を把握した特殊詐欺は274件で、被害額は約7億700万円。いずれも前年度から2倍近く増え、過去10年で最多となった。

例年は県庁に比べて事業関係の予算が少ない県警だが、被害急増の事態を受けて今回ばかりは予算の要求に奮闘したようだ。県の財政当局からは細かな「物言い」が付いたが、ほぼ要求通りの予算が通った。

獲得した予算はどう使われるのか。電話機に付ける録音機を高齢者宅に貸し出したり、不審な電話などへの注意を呼びかけるチラシを配ったりするらしい。詐欺の手口を実演する寸劇にも充てるそうだ。

一方、その効果はいかほどか。どれだけチラシを受け取っても、詐欺グループの巧妙な手口にだまされるのが現実。電話機に付ける録音機も、これまで貸し出してきた380台に360台を加える程度だ。

県警も効果の薄さは認識しているようだ。担当者は「啓発の効果を測るのは難しい。被害が増えている中で、啓発の効果を実感できない」と認めつつ「だからといって、何もしないわけにはいかない」と悩む。

さらに、捜査の成果は少ない。県警が昨年中に特殊詐欺事件で摘発したのは15人、45件。被害急増の一方で横ばいの状況が続く。摘発された多くは「受け子」などの末端で、主犯格はごく一部だ。

新年度予算を見渡して、特殊詐欺の捜査に寄与するものがあるとすれば、新しい情報解析機器の導入だろうか。スマートフォンの通信履歴などを解析すれば、犯行を裏付ける情報を効率的に収集できるという。

しかし、警察官らは「そもそも特殊詐欺は捜査に手間と時間がかかるが、割ける労力は限られる」「受け子を捕まえても主犯格とのつながりがないため、解決に至りにくい」などと、捜査の難しさを訴える。

県警は今回の事業で「高齢者の心に響く被害防止対策の推進」を掲げるが、被害を防ぐ効果的な方法は犯罪行為を思いとどまらせることだろう。「実行犯の心に響く」捜査の成果が求められている。