▼真夏の津市・志登茂川の堤防に横になって、どう見てもホームレスと思われる年齢不詳の真っ黒に日に焼けた男性が分厚い文庫本を読んでいた。2、3時間後に再び通りがかったら、堤防から降りて座り込んでいたが、変わらず文庫本を読みふけっている。スマートフォンばかりのご時世で、懐かしい景色を見る思いがした
▼スマホが街中から新聞や本を読む風景を駆逐したと思っていたが、交流サイトSNSを活用して愛書家のNPOと書店が連携し、子どもに新品の本を贈る社会貢献活動が注目されているという。厳しい生活環境の子どもが対象で、読みたい本を申し込むという仕組みが通販、スマホ時代を反映する。希望する子どもが多く、しかも紀伊國屋書店など大手書店が協力しているというのも時代を感じさせる
▼この30年ほどで本屋の数もめっきり減った。津市内を見ても小規模店はほとんど姿を消し、県下に展開した大手も撤退。乱立気味だった古本屋も消えていった。少し年代を経た本を扱う全国チェーン店も数は減り、本以外の古着などへも手を広げ、全集や年鑑セットなどはなかなか引き取ってもくれないという
▼たまたま見かけた本屋や古本屋をのぞいた世代としては隔世の感。本屋をやりたいと辞職し、候補地を楽しげに見て回っていたかつて同僚の今を思い浮かべたりもするが、限られたスペースに雑貨やコーヒーを並べ、イベントも開く「独立系書店」は増えているという
▼本好きの子どもが増え、本屋に立ち寄って棚に並んだ本から目に止まった1冊を引き出す―そんな文化の継承を願う。