伊勢新聞

2025年3月2日(日)

▼動植物、むろん虫類も含め、自然に関心を持つ生き方をしてこなかったが、近くの公園で上空からピーヒョロロとトンビの鳴き声が聞こえ、見上げるとくるりと輪を描いていた。歌と同じだと妙に感動したものである

▼歌から自然に目が向くこともあるのかもしれない。県の出先機関の垣根で赤い花を見て、手入れをしていた年配の職人に、カンツバキかサザンカかを聞いたことがある。小林幸子の歌『雪椿』と大川栄策の『さざんかの宿』を思い浮かべたからだ

▼植木職人はしばし言葉に詰まり、丈が低いからカンツバキだろうと言ったのには拍子抜けした。専門家でも区別はつきにくいらしい。確かに高さで見分けるのがいいらしいが、迷う例はいくらもある。葉の縁がノコギリ状なのがカンツバキで、なめらかなのがサザンカだとも聞いて見かけるたびに葉を1枚失敬してなぞったが、確信は持てなかった

▼地球の歴史では、同じような生態的環境になると、系統にかかわらず類似した形を身につける収束進化という現象がよくある。犬歯が異常に発達して虎に似たサーベルタイガーと有袋類のティラコスミルスの外見もよく似ているが、別種だけでなく、虎ともネコ科というだけでそう近くない

▼カンツバキの神宮奉納に、葉を摘んだ日々を思い出した。ツバキは国内に500種以上。カンツバキはサザンカとツバキとの交配説もあり、見分けにくいのは当然という解説もある。ユキツバキをカンツバキと勘違いして見極めようとしていたのは無知のなせる技だが、見識は多少広がった。