「NAGI 凪」が終刊 伊勢・月兎舎、人と暮らし発信 三重

【25年前のNAGI創刊号を紹介する吉川さん(右)と最終号を手にする坂さん=伊勢市役所で】

【伊勢】三重県伊勢市の出版社「月兎舎(げっとしゃ)」が刊行するローカル季刊誌「NAGI 凪」が、1日発行の100号で終刊を迎えた。「人」に焦点を当てながら、暮らしに結びつくさまざまなテーマを掲げて発信してきた「三重を刺激する大人のローカル誌」が、後継者不在を理由に、25年の歴史に幕を下ろす。

創刊は、平成12年の夏号。別のローカル誌を手掛けていた出版社を退職した発行人の吉川和之さん(63)と、編集長の坂美幸さん(55)の2人で立ち上げた。吉川さんは、平成11年に自費出版した熊野古道の写真集が、NAGI創刊につながったと振り返る。撮影で、カメラマンと昔ながらの峠道を歩く中「現代の暮らしは便利だが、昔と変わらない価値観がある」と、「自給的な暮らし」のあり方を探るローカル誌を目指した。

以来、地域の人を軸に、衣食住や旅にまつわるテーマを主に取り上げ、外部ライターやカメラマンと共に、年4回発行。「凪」とは逆に「そろそろ人生に波風立てませんか」とメッセージを掲げ、反戦や原発問題など、社会的な話題に踏み込むこともあった。インターネットの普及で出版不況といわれ、県内でもローカル誌の休廃刊が相次ぐ中、サイズも価格も創刊時と変わることなく走り続けてきたが、「後継者を育てられなかった。継続発行は限界」と、終刊を決めた。単行本などの出版は続けていく。

終刊号の特集テーマは「有機的に生きる」。NAGIが25年間追い続けてきた「有機的で、普遍的で、持続的」な生活を送る県内の12組を取材した。有機農家や海水から塩を作る職人、米作りから手掛ける女性杜氏(とじ)など、自然と共存しながら生き生きと暮らす姿を伝えている。そのほか、創刊号からのバックナンバー100冊の表紙を一堂に掲載。「読者からの手紙」コーナーを通常より拡大し、愛読者へ感謝を込めた。

1年前、100号の節目で終刊すると発表して以来、多くのねぎらいや惜しむ声が寄せられたという。「自分たち以上にNAGIを思ってくれる人たちがいて、ありがたい」と坂さん。

吉川さんは「やりきったという気持ち」「最終号は、三重で生き生きと暮らす人の姿を見て、読者が生き方を見つめ直すきっかけになったら。最後だが、未来に続く何かを感じ取ってもらえたらうれしい」と話した。

終刊号はB5判112ページ、税込み720円。県内の書店などで販売している。