▼10人の容疑者のうち、9人の犯罪者を見逃しても1人の冤罪(えんざい)を出してはならないか、8人の犯罪者を捕まえるためには1、2人の冤罪はやむを得ないか―考え方はいろいろあるが、罪状を認めないと保釈されないとして「人質司法」と呼ばれる日本の司法は後者を信念としていると思うことはしばしばある
▼国家賠償訴訟中の大川原化工機事件の場合、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥機を輸出したとして同社社長ら3人が逮捕され11カ月勾留され、公判直前に公訴を取り下げられて、裁判が終結した。3人のうち1人は勾留中に病気を発症し、保釈が認められないまま死亡し、警視庁公安部の事件の主導者は昇進した
▼業務上横領罪で大阪地検特捜部に逮捕・起訴されたプレサンスコーポレーション事件では、大阪高裁は取り調べた検事を被告人として刑事裁判を開く決定をした。障害者郵便制度悪用事件で逮捕された村木厚子社会・援護局障害保健福祉部企画課長(のち厚労事務次官)は特捜検事の証拠改ざんもあり5カ月勾留後保釈され、無罪判決が出た記憶も鮮明
▼日産自動車元会長のカルロス・ゴーン事件でも、元会長の「人質司法」批判に多くの海外メディアは共感したといわれる。東京五輪・パラリンピック汚職事件で7カ月勾留された出版大手KADOKAWA元会長・角川歴彦被告が「人質司法」で精神的苦痛を受けたとして国賠訴訟を起こした
▼「地獄から生還した」と語っているという。公判の行方は別として、悪名高い「人質司法」は見直されるべきだ。