<1年を振り返って2024>阿田和駅舎建て替え計画 簡易待合所案に反発の声

【令和8年度以降の取り壊しが決まったJR阿田和駅=御浜町阿田和で】

JR東海は7月、紀勢本線阿田和駅(三重県御浜町阿田和)の駅舎建て替え計画を町に通達した。同社は駅舎の撤去後、同社が簡易待合所を設置する案と、町が複合施設を備えた駅舎を整備する案を提示。町は待合所設置を希望する方向で調整を進めるが、議会などでは反発の声が上がっている。

同社によると、木造平屋の駅舎は昭和14年に完成し、翌15年に紀勢西線(現紀勢本線)の延伸に合わせて開業。同58年に無人化した。町の玄関口にあたり、昨年度の1日の平均乗降者数は約260人。駅周辺には道の駅「パーク七里御浜」や紀南病院、町中央公民館などがある。

同社はホーム屋根の撤去後、来年末までに老朽化とシロアリ被害の著しい駅舎を取り壊し、令和3年に封鎖した構内トイレも撤去する。同8年以降にアルミ製の待合所を新設する予定。現駅舎の広さ約170平方メートルに対し、待合所は畳6枚分ほどの約10平方メートルで、中に数台のベンチを置く。

町は同社からの意向の照会を受け、各課における駅の敷地を活用した事業計画の有無を調査。現時点で具体的な事業計画がないことを踏まえ、待合所の新設を希望する意向を固めた。8月の全員協議会で説明を受けた町議らは、駅周辺を再整備する好機と捉え、積極的な跡地活用を求めた。

9、12月の町議会本会議一般質問で、町議らは「魅力ある駅舎にしてもらいたい」「改革せずに発展はない」などと立て続けに反発。大畑覚町長は従来の方針を改めて説明した上で、駅舎の撤去後に生じる余剰地については「駅前整備に活用できないか検討する」との答弁を繰り返した。

地域住民らも町の方針に疑義を唱える。約15人が参加した10月の阿田和地区町政懇談会「町長と語ろう」では、駅機能が最小限になることへの不満が噴出したほか、交流施設を兼ねたJR参宮線田丸駅(玉城町)に倣い、旧駅舎を模した施設を整備し、駅舎を保存する具体案も示された。

田丸駅は今年4月、昨年に解体された旧駅舎跡地に、町が総事業費約7300万円で整備。駅舎には交流スペースと町観光協会職員が常駐する事務所を設けた。同駅ついて大畑町長は「(玉城町の)辻村町長から視察に来てはと直々に提案があった」とするも、視察に行かなかったという。

同社への回答期限が本年度末に迫る中、ある御浜町議は、隣駅で同町下市木の紀伊市木駅が平成28年に待合所に簡易化されたことに触れ、阿田和駅の建て替えに一定の理解を示しつつ、同社に対し「厳しい対応。何の前触れもなく『取り壊します』では計画がないのは当然」と漏らす。

同駅を最寄り駅とする紀南病院は「通勤で利用する職員はおらず、ほとんど影響はない」と話す一方、県立紀南高(阿田和)の学生への影響は大きい。同高では5月1日時点で、全校生徒192人中50人が電車通学し、学生からは「雨の日は傘を差して乗り込むのか」との声も上がる。

町によると、待合所設置後に同所活用の事業計画が浮上した場合、同社に相談した上で対応できるという。とはいえ、第6次町総合計画(令和3―12年度)に照らしても、活用する事業計画がないのも事実。町の方針は「既定路線」だが、再整備の好機を逸した町政への風当たりは強い。