伊勢新聞

2024年12月26日(木)

▼12歳の実の娘に性的暴行して強制性交致傷罪に問われた被告の控訴審判決で、大阪高裁は懲役20年の一審大阪地裁の裁判員裁判判決を破棄し、懲役15年を言い渡した

▼一審判決は懲役18年の求刑を上回る。高裁は「いささか過剰な評価」と指摘。「従来の傾向から著しい乖離(かいり)がある」として減刑した。この経緯は、裁判員裁判導入時の懸念を見事に反映させているように思う。法律の専門家同士でやりとりする従来の司法に市民感覚を取り入れるというのが裁判員裁判の狙いだったが、市民感覚の裁判員裁判判決を専門家の上級審がひっくり返した場合、市民感覚はどうなるのかという問題があった

▼専門の法律家が積み重ねてきた同種事件の量刑を守るなら、市民感覚導入の意味はない。裁判員裁判の判決を破棄するにしても、なぜ量刑が重すぎるのか。同種事件の量刑の上限を考慮して、という理由だけでは前例踏襲と同じで、裁判員裁判の趣旨から外れるのではないか

▼「従来の傾向から著しい乖離がある」というのは、裁判員裁判として当然の帰結だろう。覆すのなら素人の判断を打ち破るだけの専門家らしい説得力ある説明が必要なのではないか。過去の事例を得々と持ち出すだけでは、裁判は市民から遠い存在として司法改革した意味もない

▼一審の裁判員裁判でも、専門の3人の裁判官だけなら検察の求刑を上回る判決など出せまい。6人の市民裁判員の意見に、専門裁判官も納得した結果ではないのか。どこがどう問題なのか。専門裁判官の力量が問われている。