三重県松阪市の3つの基幹病院は6月から、救急搬送されながら入院に至らなかった軽症患者から「選定療養費」7700円の徴収を始めた。8月末までの3カ月間で、救急搬送件数が前年同期に比べ2割減少し、一日に50件以上救急出動する日数が8割減へ激減した。安易な救急車の利用に歯止めをかける効果がみられた。
3病院は松阪中央総合病院(川井町)と済生会松阪総合病院(朝日町一区)、松阪市民病院(殿町)。選定療養費はかかりつけ医の紹介状なしに受診した場合に払い、保険の適用を受けない。
松阪地区広域消防組合消防本部の令和5年の救急出動件数は2年連続で過去最多を記録し、全国の同規模消防本部の中で突出した。救急医療体制を維持するため、軽症者に救急車以外の選択を促す目的で選定療養費を取り入れた。
導入から3カ月間の救急搬送件数は前年同期に比べ23・2%減少した。一日に50件以上救急出動があった日は前年同期の47日から78・7%減の10日へ激減した。一日のうちに救急車の出動要請が重なる事態が減少した。
一方、休日・夜間応急診療所の内科患者は前年同期比68・2%増と激増。救急相談ダイヤルの利用者も同42・8%増と大幅に増えた。
選定療養費の導入成果について竹上真人市長は「効果が大きい」と手応えを示し、「救急搬送の一番の問題は一日に増えること。かぶった場合、待っていただかなくてはいけない。増え続けると助かる命が助からない。これまで一日最高70件あり、限界に近かった。それが激減した」と話す。
市民3千人を対象に実施した市民意識調査(調査期間・9月17日―10月4日、回収率46・0%)では、116問のうち4問で選定療養費や救急車の適正利用を質問した。
救急搬送の軽症者に対する選定療養費の徴収に対する賛否は、「賛同する」43・0%と「どちらかといえば賛同する」34・6%が合わせて77・6%。「賛同しない」5・7%、と「どちらかといえば賛同しない」8・1%は計13・8%にとどまった。
竹上市長は「賛同が約8割で圧倒的。非常に心強い。ありがたい。結果が出るまでドキドキしていた。安心した」と語る。
さらに「なぜ、松阪地区は救急車の出動件数が多いと思いますか?(複数回答)」の問いには、9個の理由がそれぞれ10%前後の回答率で並ぶ。「救急車を呼ぶと『必ず診てもらえる』という安心感がある」12・2%、「救急車の方が早く診てもらえると思うから」9・8%、「軽症者が要請しているから」8・6%―などが挙がり、安易な救急車利用の背景が浮かび上がる。
竹上市長は「松阪の救急医療の充実の裏返しみたいなところがあるのかな」とコメントしている。