【南牟婁郡】漁業者の高齢化や漁獲量の低迷で漁業の先細りが危惧される中、三重県御浜町中立の尾呂志川沿いで、紀南漁業協同組合の最年少正組合員・東裕太さん(40)が無人の魚屋「山奥の漁師が営む、さかな屋さん」をオープンした。開店について「挑戦的なシフトチェンジ」と力を込める。
同町出身の東さんは高校卒業後、祖父の代から続く漁師の道へ進み、約20年伊勢エビ漁を続けてきた。当初は先輩漁業者から「伊勢エビ漁さえやれば食べていける」と言われていたものの、近年は漁獲量が低迷。紀南漁協によると、漁獲量は平成21年の1割以下に落ち込んだという。
5年前に65人いた正組合員は、先月末時点で42人まで減少。うち33人が60代以上と高齢化も進むなど、単独経営も徐々に困難になっている。漁業を取り巻く環境が厳しい中、東さんは地元の市場への出荷に限定した自らの方針を変えようと、漁法や販路の開拓に乗り出した。
現在はイセエビ漁にとどまらず、一本釣り漁などにも挑戦。釣った魚を動画投稿サイト「ユーチューブ」のライブ配信で販売するなど、全国に向けて出荷している。自宅横に調理場を新設するのを機に、配信に労力が割けない日のフードロスをなくそうと、今秋に同所で無人販売を始めた。
店内は手前にシンクや冷蔵庫を置いた広い調理場を、奥にライブ配信用の小上がりを配置。入り口付近に1台のショーケースを配した。東さんが釣ったムツやメダイ、サバなどをあぶりや刺し身で販売。卸売業者から仕入れたキハダマグロなどのほか、母が畑で育てるサツマイモや大根も置く。
東さんは「市場だけに出荷する体制では、今後10年も続くイメージが湧かなかった」と強調。シフトチェンジは「不漁はもちろん、日本人の魚離れが進んでいることも大きい。挑戦しないなら後は先細っていくだけ」と指摘する一方で、ほかの組合員が対策しないことに危機感を募らせる。
水産庁によると、食用魚介類の1人1年当たりの消費量は、令和4年度は22・0キロで、平成13年度からほぼ半減した。同23年度に肉類と逆転しており、東さんは「魚嫌いの人も食べられる魚を自信を持って並べている。買わなくてもいいので、気軽に来てほしい」と話している。
魚屋は不定期に開店する。営業時間未定。現金を料金箱に入れるか、スマートフォン決済「PayPay」で支払う。駐車は自宅前へ。問い合わせは公式インスタグラム=yama.sakanaya=へ。
<記者メモ>
紀南漁協の役員を経験し、先を見据えた挑戦の重要性を実感したという東さん。先頭に立って日本の水産業を守ってもらいたいです。