伊勢新聞

2024年12月8日(日)

▼「かわいらしいヘビの置物」という表現にも、しっくりこない向きがいるかもしれない。祭りなどで昔、ヘビの図柄で文字を描いて縁起物として売る店がよく出ていた。カネを抱くという言い伝えもあり、一家に一枚というたんか売に乗せられて買って親に気味悪がられた。自室の壁に貼っていたが、いつのまにかなくなった

▼年末恒例企画「歳末点描」の第1弾は、来年の干支(えと)にちなんだ「ヘビの置物」。津の百貨店「松菱」に約60種が並び、担当者が「リアルなヘビの形ではなく、かわいらしいデザインが人気」と説明するのもヘビに対する多くの人の感情を背景にしているのだろう

▼今昔物語に「酒つぼのヘビ」の話がある。比叡山で修行して故郷に戻った僧が、お供えとしてもらった餅を夫婦だけで食べていたが、酒にすることを思い立った。できあがったころに酒つぼのフタを開けるとたくさんのヘビに変わっていたという話だ。驚いてフタを閉め、遠くの野原に捨ててきた

▼一両日の夕方、通りかかった3人の男が見つけて中を見ると、おいしい酒になっていたという。今昔物語にはほかに、蓄えを誰にも知らせず死んだ高僧がヘビになったり、極楽往生しようと念仏三昧で死期を迎えた聖人が、直前に机の上の酢の行方を気にしたばかりに小蛇になった話がある

▼西洋では医療・医術の象徴とされるヘビだが、日本では人間の弱い心に入り込む魔として扱われることが多いのかも知れない。脱皮できないヘビは死ぬという。古来、人間に何事かを教えてくれる存在である。