伊勢新聞

2024年11月18日(月)

▼この欄に昨日書いた「校正恐るべし」。論語の「後生畏るべし」をもじったシャレといわれるが、言い出しっぺは毒舌と風刺で知られる明治時代の評論家斎藤緑雨の説がある。「筆は一本也、箸は二本也。衆寡敵せず」の言葉で知られる。文筆業として生活していくことの困難さを、数の違いに例えて自らを笑い飛ばした

▼時代によって人々の心理は変わるが、この一本と二本の原則は変わらぬのではないか。「お笑いの中には差別が内在する」と言ったのは解剖学者の養老孟司さんである。漫才ブームと言われる中で、お年寄りを、女性を、いわゆる社会的弱者を笑いものにすることでのし上がった芸人は数多い

▼成功例を追って、弱者への風刺は今も変わらない。そのお笑い芸人がバラエティーだけではなく、シリアスな番組へも浸透し、何事もおもしろおかしく伝えていく。出演者に波及し「手をはたき、大口開けて笑う芸」一色に染まる

▼県教委が小学校高学年向けに、いじめ防止の動画を作成した。いじめの具体例を紹介し、相手の気持ちを考える大切さを伝える内容。三重弁護士会がいじめ防止の授業を小学校で実施しているが、連動して活用されるらしい。アニメーションでの具体例も収録し、児童らに受け入れやすくして「自分事として主体的に話し合ってもらえる」狙いという

▼いじめの認知件数はこのところ天井知らず。重大事態を見逃している例も問題になるが、全体的に多いのが冷やかしやからかい、悪口や脅し文句である

▼筆は一本、衆寡敵せずの思いがする。