2024年11月10日(日)

▼検察内部の権力闘争のあおりで読売新聞記者が逮捕された事件をリポートした『不当逮捕』などで知られるノンフィクション作家の本田靖春を、まだ無名のライターだった元東京都知事の猪瀬直樹氏が訪ねた話がある

▼原稿料が安すぎてフリーのライターは暮らしが成り立たない。出版社と値上げ交渉をしたいが、個別に当たっても相手にされないから協力してくれないか、というのである。本田が大要、次のように答える。原稿料については同感だが、われわれのすべきことは交渉ではなく、実力で認めさせることではないか。(『マッハの恐怖』などで知られる)柳田邦男にも聞いてみろ、と言ってお引き取りを願ったと書いていた

▼当時、猪瀬氏のような行動はライターたちを驚かせたのではないか。本田自身も、新聞社を飛び出した当座は収入の当てはなく、月刊誌『文藝春秋』の名編集長と言われた田中健五(のち社長)のひいきで食いつないだ。生殺与奪の権は出版社が握っていた。本田は「田中の子飼い」と言われるのに反発して田中との縁を切っている

▼フリーランス新法の施行で、時代は猪瀬氏の考えに向かった。本田のように腕一本に頼る生き方は出版社を利する行為となるのだろう。出版大手「KADOKAWA」がライターやカメラマンなどの報酬を「買いたたき」したとして、公正取引委員会が近く再発防止などを勧告する

▼原稿料や撮影料を突然引き下げる通告をしたという。公取委の動きで直ちに元へ戻すとも。前近代的な体質をいまさらながら思い知る。