▼「衣の袖から鎧(よろい)が見える」は『平家物語』由来の故事。反平家の謀議があることを知った平清盛が中心人物の後白河法皇を幽閉しようと兵を繰り出そうとしているところに穏健派の長男重盛がいさめようと現れる。面倒と清盛が鎧の上に法衣をまとって対面したが、法衣の下から鎧が見えていたという話
▼どんなに表面上はとりつくろっていても、言葉の端々や挙動から、本音は見えてくるという趣旨に使われる。自民党総裁になった石破茂氏が首班指名前に衆院解散・総選挙の日程を発表した。1日の新内閣発足から27日の投開票まで27日間。歴代内閣で一番短い。総選挙は示唆していたとはいえ、国民に判断材料を提供してからと前置きしていたことと話が違うのではないか
▼日程決定については、各選挙管理委員会が準備できる期間を考慮したといったが、国民の判断には特に触れない。代表質問と党首討論で十分という意向ともいうが、予算委員会に意欲的だった総裁選挙までの主張はどうなったか
▼石破首相がぶれたのは総裁選挙からでもあった。「今回は政策が一致する同志と戦いたい」みたいな話だったが、ぎりぎりで麻生太郎副総理(当時)に頭を下げたと伝えられる。頑丈な鎧をまとっているように見えて、実は衣の重ね着だったのかもしれない
▼岸田文雄前首相は就任前「聞く力」を信条にしていたが、就任後はついぞお目にかかった記憶がない。石破首相もか。共通するのは衣の下の鎧、すなわち首相を続けたいという国民不在の硬い姿勢でなければ幸い。