主にヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で発症する子宮頸(けい)がん。子育て世代の患者も多く「マザーキラー」と呼ばれ、国内では年間1万人以上が発症し、約2900人が亡くなっている。男女問わず8―9割の人が一生に一度はHPVに感染するとされるが、子宮頸がんの予防にはHPVワクチンが有効で、厚生労働省は定期接種を推奨している。接種機会を逃した世代が対象の「キャッチアップ接種」が半年後に終了するのを前に、30代で子宮頸がんと診断された三重県内の女性2人から話を聞いた。
松阪市在住で2人の娘を持つ公務員の辻さんは令和4年9月に子宮頸がんと診断され、医師に子宮の摘出を勧められた。2年前の子宮頸がん検診では異常がなく、突然の宣告に「頭が真っ白になった」と語る。
「子どもは2人欲しいと思っていた。2人目が生まれてからだったので(子宮の摘出)を受け入れられた」。一方で当時、長女は6歳で次女は2歳。子育てを続けられるかが不安になったという。
幸い、がんの転移はなく、12月に子宮を切除する手術を受けた。手術後の合併症はほとんどなく、仕事に復帰して経過観察のために3カ月に一度の通院を続けている。
辻さんはHPVワクチンの定期接種が始まったときには対象年齢を過ぎ、ワクチンを接種していなかった。「ワクチンを打たずに子宮頸がんになったら後悔する」と2人の娘が中学生になるころには接種するよう伝える予定だ。
「(接種の対象になっている人には)まずは子宮頸がんに関心を持ってもらいたい。ワクチンで予防できるがんなので、後悔することがないよう、今のうちにしっかり考えてほしい」と話す。
中学生の娘を持つシングルマザーの山本さん(仮名)は今年3月、不正出血をきっかけに検診を受け、子宮頸がんが発覚した。重症度の高い「ステージ3」で、5年後の生存率は50―60%と告げられた。
2年前に受けた検診でがんは見つからず、仕事と育児に追われる日々を続けていた。娘は山本さんががんと告げられたことでショックを受け、学校に行きづらくなった時期もあったという。
子宮や卵巣、リンパ節などを切除する手術を5月に受けた。「子どもがいるので子宮の摘出に迷いはなかったが、女性としての生き方が取り上げられた感じがした」と当時の思いを語る。
抗がん剤や放射線による治療も受け、合併症や副作用との「地獄」のような闘いが続いている。足がむくみ、ゆっくりとしか歩けなくなった。耳鳴りが続き、1カ月以上、食欲が戻らない。
今後は再発に備えた経過観察も続く。「無邪気にあしたが来るという感覚がなくなった。娘との時間を一番に、私がいつ、どうなってもいい体制を作らないと」と新たな気持ちで日々を過ごす。
娘にはHPVワクチンを打つよう伝えた。「子宮頸がんはワクチンで予防できる確率が高いがん。私みたいにならないように、若い世代のみなさんは絶対打ってほしい」。
公費によるHPVワクチンの接種について、定期接種は小学6年―高校1年の女性、キャッチアップ接種は平成19年度―同9年度生まれの女性が対象。一般的には半年かけて最大3回接種するため、今月中に初回を打つと、キャッチアップ接種が終了する来年3月までに完了する。接種の問い合わせは各市町の予防接種担当課へ。