伊勢新聞

2024年9月17日(火)

▼「敬老の日」の記念行事といえば、首長の高齢者訪問や園児らの感謝の言葉やプレゼントなど。長寿の秘けつや長生きを願うのが定番。「ごくろうさま」と丁重に社会から追い出すようでなじめなかったが、鈴鹿市の自動車学校では、高齢者が安全に運転できる期間(運転寿命)を延ばす再教育を始めたという

▼高齢者、特に75歳以上の後期高齢者の運転環境は厳しい。免許返上を促され、応じた知人に理由を聞くと、本人の意思というより子どもたちの説得。「事故を起こしてからでは遅い」と高齢者の暴走運転の例を引き合いに迫られると、自分の身には起きないと突っぱねるのは難しいという

▼公共交通機関の利便性がよくない県で、車がなくなると外出への気力が薄れ、家に閉じこもりがちになる。反射神経など五感も鈍くなった気がすると語っていた。老化は個人差で大きく異なる。高齢者研修で、80歳を超えた女性が視力2・0以上で計測不能というのに驚いた。視力がいいというのは、危険回避能力が高いということでもあろう

▼国立長寿医療研究センターの調査では、運転を中止した高齢者は継続している高齢者に比べ、要介護状態になる危険性が約8倍。鈴鹿市の中勢自動車学校は独自のトレーニングプログラムを開設し、安全確認やハンドル操作技能を向上させたという

▼「普段運転できる人」はリハビリテーションの対象にならず、医療機関が直接介入できないのが現状の課題ともいう。高齢者の交通問題が免許返上や認知症検査だけではないことを物語る。