2024年9月15日(日)

▼ペルーの元大統領アルベルト・フジモリ氏の名前を記憶している人の多くは、首都リマの日本大使公邸人質事件の影響だろう。個人的にはそれから4、5年間、新人研修の教材として活用させてもらった

▼厳重なはずの警備陣をかいくぐり、広島のテレビ局がゲリラ側に取材交渉をして、フジモリ大統領を激怒させたと伝えられた。取材を取引材料にしようとして当てが外れた怒りだったと言われたが、橋本龍太郎首相(当時)も、人質の安全を考えた責任ある取材かなどと不快感を示し、日本の報道機関はほとんどがこの論調に乗って広島のテレビ局を批判した

▼出し抜かれたという思いもあったのかもしれない。新聞も社説で、取材対象に迫るのは当然とした朝日新聞一紙を除き批判した。新人研修では、批判の代表的一紙と朝日の社説を比べ、どうしてこんな違いが起きるか考えてもらった。広島のテレビ局が朝日系列だから、と答えた新人がいたのはさすがマスコミ志望者と思った

▼新聞のリポートの書き方として「おや、まあ、へー」がある。おや、と思わせる書き出しで、続いてその理由を解説し、導き出される結論を提示して、新視点、課題に思いを巡らしてもらう。二つの社説はこの書き方を踏襲していて、結論は真逆だった

▼ものをどう見るかの視点が大事だが、書くのは客観的でなければ説得力はないことを示す格好の教材と思えたが、どこまで伝わったか

▼人質の安全か、真実への肉薄かはケースバイケースで、常に考えなければならないことも知ってほしかった。