伊勢新聞

2024年7月10日(水)

▼県障害者入所施設「県いなば園」で利用者への虐待が相次いだ背景について、運営する県外郭団体「県厚生事業団」の井戸畑真之理事長が「忙しい中で職員が余裕をなくしていたことがあると思う」

▼悠揚迫らぬ、なかなか見事なコメントではないか。令和3年の虐待事案発生で翌4年3月に「虐待防止改善計画」を策定し、実行期間中の同5年8月にまた起きた。事業団の活動を審査した翌月の県の報告書で「重く受け止めている」として改善計画の見直しなど求めた知事コメントの方が危機意識がにじむ

▼県の特別監査で、言葉や体への暴力など、これまで明らかになっていた3件のほかに13件の不適切事例が指摘された。入所者から布団の洗濯代として徴収した現金約19万4千円が昨年9月、施設内の金庫から消えた。こちらの原因は「全く分からない」という。事業団がとりあえず穴埋めして、被害届を出したというから“紛失”レベルでないことは薄々感づいてのことだろう

▼不適切と認定された13件のうち入所者を呼び捨てにした、というのは平素の親密度合いということがあるとしても、入所者が乗った車いすを蹴った
▽入所者に「ルールを守れなかったら、お母さんに会えないよ」と声をかけた―などは、少なくとも陰湿ないじめではないか

▼18人の職員が関与しているというのだから組織ぐるみでもあろう。「虐待防止の取り組みに加え、働き方や職場風土も改善して安全で安心な環境をつくる」と井戸畑理事長。急がば回れということか。見識ではあるが、回り道はまだまだ続きそうな気がする。