伊勢新聞

<まる見えリポート>鈴鹿市マイナ保険証活用 県内初 救急に成果

【マイナ保険証を活用した救急活動のデモンストレーション=鈴鹿市飯野寺家町の市消防本部中央消防署で】

鈴鹿市消防本部で6月11日、国の「マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化に関する実証事業」が始まった。県内初の取り組みで、今後、26日から四日市市消防本部、8月9日から津市消防本部でも同事業を開始するのを前に、鈴鹿市の現状を取材した。

救急隊が傷病者の健康保険証利用登録をしたマイナンバーカード(マイナ保険証)を活用し、医療情報を正確かつ早期に把握することにより、救急活動の迅速化や円滑化を図るのが狙い。実証事業はシステム構築に向けて、全国67消防本部が選定された。

マイナンバーカードから医療情報を閲覧できる専用のタブレット端末は、市内の全救急車9台に配備し、期間中は救急搬送時に傷病者の同意のもと、救急隊員が手術歴やかかりつけ医、服用薬などを正確に把握することで、搬送中の適切な応急処置や搬送先病院での治療の事前準備につなげるとともに、同意の可否や搬送時間など、効果の分析に必要なデータを収集する。実施期間は約2カ月。

マイナ保険証の利用については本人の同意を基本とするが、重傷者や意識がない人の場合、同意不要で救急隊員が判断する。マイナンバーカードを持っていない人や健康保険証利用登録がない人、本人不同意の場合は通常通りの救急業務をする。

市によると、先月23日現在のマイナンバーカード交付数は15万8169枚で、市民の約8割が保有する。一方、市でマイナ保険証への登録者数は把握できないという。全国平均は約57%(1月末現在)。

先月11日、実証事業スタートに合わせ、同市消防本部中央消防署で報道関係者を対象に「傷病者が意識もうろうのため、関係者からマイナ保険証の提供を受けて救命処置を実施する」と、想定したデモンストレーションが実施された。

救急隊は、傷病者のカード情報から糖尿病の既往歴やインシュリン注射歴の情報を得たことで、迅速に血糖測定やブドウ糖溶液の投与など、適切な救命処置につなげた。

実証事業開始から約1カ月。市消防本部によると、6月11日から7月5日午後4時までの救急出動件数は689件で、自宅からの通報が約七割を占める。うちマイナンバーカードを持っていたのは246人で、200人から同意を得ることができた。

そのうち、141人はマイナ保険証に紐(ひも)付けされており、活用率は全体の約2割となる。年齢別では0―19歳が14人、20―64歳が55人、65―98歳が72人。

救急搬送車の6割以上が軽傷者というものの、認知症の高齢者や先天性疾患がある20代女性など医療情報が正確に分かったことで、迅速な対応につながった事例はいくつもある。

市消防本部消防課救急対策室の服部智広室長(54)は「公表されているマイナ保険証の利用率を考えると、思ったより多い」と評価する一方、「常に携行していないと活用できない。救急隊が所持品を探ることはできないため、重篤な傷病者の救命には家族など周囲の協力が不可欠」と話す。

マイナンバーカードが保険証に紐付けしてあれば、保険証として利用していなくても令和3年以降の医療情報は共有できる。

現場で活動する救急隊員は現状をどう見ているのか。中央消防署の竹内泰成さん(26)は「閲覧できる医療情報に対して薬の知識が追いついていかない。研修や講習が必要」、渡邉博之さん(52)は「マイナ保険証のことを知らない人がいる」とそれぞれ話す。

服部室長は「まだ事例はないが、在留資格を持つ外国人にも有効活用できるのではないか」と話した。