今年5月、岐阜県で開かれた春季東海地区高校野球大会で、2001年以来となる決勝に進んで中京大中京(愛知県)に1点差で敗れ、準優勝した菰野(三重県菰野町)。23年ぶりの春の東海大会決勝に先発出場したのはエース左腕の榮田人逢を始め全員が2年生だった。
春の勢いそのままに、08年以来の全国高校野球選手権出場を目指すこの夏。主力に下級生が多いチームで精神的支柱でもある3年生の山口拓真主将は、三塁コーチとして裏方に徹する覚悟だ。
ベンチでは誰よりも大きな声を出す。試合前、緊張しているチームメートを見つけたら積極的に声をかける。指導陣からの信頼も厚いキャプテンだ。
名古屋市内の中学に通いながら津市の硬式野球チームで活動していた当時、本職は投手だった。西勇輝投手(阪神)ら好投手を多く輩出する野球部に憧れて菰野高校に入学したが、現実は厳しかった。
肩の故障もあって早々に投手の道を諦め、内野手での定位置獲得を目指した。ベンチ入りメンバーにはとどまり続けたが、才能豊かな下級生たちとのレギュラー争いは熾烈(しれつ)。ベンチを温める日々が続く中、野球部主将に推薦されたが「プレーで何も見せられない」自分に務まるのか、不安が募った。
迷いを吹っ切ったのはベンチ外となった同学年の仲間の思いを感じたからだ。試合では応援に回り、自分たちや下級生たちのため、声を枯らしてくれた。「(試合に)出ていない3年生がいる中でベンチに入れさせてもらっている。その人たちの分までできることをやりたい」。高校最後の春、自らベースコーチになることを決断した。
三塁コーチは自身の判断、指示が得点に直結する。「1点入るか入らないかの場面で重要な役割がある。そこにしっかり責任感を持って、練習試合の時から試合の流れ、ランナーの状態を見ながら判断を磨いている」。
「3年生のためプレーする」と言ってくれた2年生の主力メンバーたちの思いにも応えたい。「自分のできることを全力でやる。その背中を後輩たちにも見てほしい」と願っている。(連載終わり)