2024年6月18日(火)

▼麻薬取締官に捜査協力するS(スパイ)だった元受刑者が、法廷でその取締官に「裏切られた」という告白記事は、テレビのサスペンスドラマを地で行っていた。ドラマの方が現実を地で行っていたという言い方が正確か

▼その世界で知られた大物密売人だったが、Sとなって薬物取引の情報収集したり、写真撮影に協力したり、サンプルを提供したり。密売人仲間から「Sではないか」と疑われ、身の危険を感じたこともあったなどと、告白はいずれもドラマで何度か見たストーリーそのままだ

▼極めつけは結末だろう。大阪府警に大物密売人として現行犯逮捕され起訴されたが、公判で捜査協力の取引だったと訴えたのに対し、麻薬取締官は「情報提供は受けていたが、薬物取引をするとは聞いていなかった」と反論。8年6月の実刑が確定した

▼判決は麻薬取締官の証言を否定し「2人は持ちつ持たれつの関係にあった」と裁いた。麻薬取締官が麻薬摘発で大いに成績をあげたのは分かるが、Sになった方も何らかのメリットがあったということか

▼麻薬取締官とSとの恩恵ははた目には知るよしもないが、元受刑者が法廷で偽証したと麻薬取締官を刑事告発したのに対し、大阪地検は不起訴処分にした。近畿厚生局麻薬取締部(大阪市)と大阪地検の、これはドラマだけではなくも身内同士、おなじみの“持ちつ持たれつの関係”に映る

▼大川原化工機冤罪(えんざい)事件は手柄を焦った警視庁公安部外事一課が権力を駆使して仕立てたとされる。ドラマを追従する事件が目立つことである。