伊勢新聞

2024年6月9日(日)

▼クマの出没件数が昨年度中は40件で、調査を始めた平成10年度以降で最多だと一見勝之知事が明らかにしたのは5月29日の定例記者会見。本年度も既に8件の報告があり、昨年同期の1件を大幅に上回っているということだったが、関係部局や県警の幹部らでつくる鳥獣被害対策連携会議が発足した7日には本年度報告件数は19件と報告された。10日足らずで倍増したことになる

▼県内のクマの出没は大台山系などに顕著で、ドングリなどのエサが不作の時の冬眠前などが危険とされていたが、近年はそんな特殊事情や地域を問わず目撃されるようになったらしい。一昨年が19件、その前年が12件だったせいか、昨年40件の大幅増に対して、対応がいささか遅れたかにみえる。7日の会議でも「ツキノワグマ出没情報マップ」が公開されたものの「県民の安全と安心を確保する」(清水英彦危機管理統括監)ための県や同会議の具体的行動指針などは示されなかった

▼野生の鳥獣被害が増えているのは、基本的には人間の生活環境と鳥獣のそれの境界があいまいになってきたからだろう。荒れた山林を通ると人の姿がなくなった耕作放棄地が表れる。おいしそうな作物畑や貯蔵庫が目の前だ。散乱している生ごみも餌である。鳥獣が味をしめてしまうのも無理はない

▼県は「みえ森と緑の県民税」を創設。平成26年から森林の手入れとともに獣害被害の対策を用途の一つにあげている。全国に先駆けた県民税が、全国に広がるクマの出没に成果をみせるのは今である。