伊勢新聞

2024年5月9日(木)

▼黒田東彦前日銀総裁が現役時代に講演で「家計が値上げを受けいれている」と発言して批判を浴び「適切な表現でなかった。誤解を招き申し訳ない」と陳謝し撤回したことがある。商品が値上げされたら別の店に行く、という一部調査結果が前回より減少したことの分析で、「苦渋の選択であった」などと釈明した

▼撤回数日前の参院で、スーパーでの値上げの体感を問われ、買い物は基本的には妻で、自身「物価の動向を直接感じるほどではない」と答えている。釈明にどれほど説得力があるか疑問だが、事情は基本的に前総裁と同じで昨今のすさまじい値上げぶりに実感は薄いものの、いつも冷蔵庫に備えられている納豆のパックを開けて、見慣れた納豆じょうゆとからしのセットが見当たらなかった

▼妻に聞くと、別売りになったという。やはり欠かしたことのない袋詰めコーヒーも値上げ、これは台湾の影響だそうで、野菜類の値上げときたら、と話は延々と続く気配に早々退散した。人ごとではないのだが、家計の苦渋ぶりは2年前の黒田前総裁のころをはるかに上回っていることは実感した

▼帝国データバンク四日市支店によると、県内景況感は2カ月ぶりに悪化。全国も同様だが、順位は前月の7位から25位に転落した。大企業の悪化が中小企業を大きく上回っているというのが不気味だ。値上げはその要因に含まれていないが、同日の発表では原材料の高騰などを価格転嫁した企業は4割ほど。県の3月発表でも5割強

▼苦渋の時代がさらに強まって続きそうだ。