伊勢新聞

2024年4月16日(火)

▼高校時代、血を売りに行くという友人について行ったことがある。薄暗く、寒々として木造のベンチが並ぶ病院の受付のような構造。顔色のよくないホームレスといった人で混み合い、悪寒が走って外へ出たが、数回経験している友人は平然と売血して出てきた

▼友人が売血するようになったのは仲間たちに流行したパチンコで負け続けたためだ。授業料や給食費などを使い込み、ある者は親に泣きつき、ある者は借金に走り、うち何人かは売血に頼った。いずれの場合もそこに行き着くまで徹底的にのめり込み、勝ってやめる者はいなかった

▼授業料をつぎ込む行為に驚いたが、思えば、ギャンブル依存症の入り口に立っていたか。その恐ろしさは鈴鹿市で場外舟券売り場建設問題が勃発した時、反対運動家の資料で知ったが、浜田幸一衆議院議員(当時)のバカラ賭博5億円損失事件や、製紙会社会長の不正引き出し106億円のカジノ流用事件で実感した

▼10年余を経て米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳が、ネットカジノに同選手の口座から24億5千万円を引き出して送金していたことが話題となっている。公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」への相談は急増。代表は「国の啓発がまったく足りていない」

▼先行きへの懸念が深まる大阪・関西万博。テーマは「いのち輝く未来のデザイン」で、岸田文雄首相は「会場には未来社会の姿が現れる」。が、会場跡地にカジノが誘致されることに議論は深まっていない。