伊勢新聞

2024年4月5日(金)

▼静岡県の川勝平太知事が辞職表明した“余震”が翌日の3日も続いた、と言っては時節柄、不適切な例えだと怒られそうだが、一見勝之知事が2日の定例記者会見に続き、翌3日も「臨時ぶら下がり会見」なる聞き慣れぬ会見に応じ、川勝知事の失言についての感想を述べるとともに、2日連続で「リニア中央新幹線」の見通しを語った

▼辞職表明に「正直、驚いた」という一見知事の感想に掛け値がないのは以上の経過説明で十分だろうが、川勝知事の失言について、中国の古典から「綸言汗のごとし」を引いて批判したのも、その表れとうかがえなくもない

▼皇帝がいったん口にした言葉は汗と同じで体に戻すことができないという意味から、軽率な発言やその訂正を戒める格言だが、一見知事のリニア開業の見通しも、当然ながら一夜にして前のめりに変わった

▼失言についてはかなり踏み込んだ発言をしているのに、川勝知事が静岡工区の着工を認めなかった水資源や生態系への影響については「私どもが言及できる部分ではない」という。いささかそっけなくはないか。人権問題や差別意識への言及と、環境、生態系に思うところを主張していくことは、現代の政治家として、ともに重要な資質の気がする

▼一見知事は、言うまでもなく国土交通省出身。古巣はリニア新幹線の一方の当事者だ。だから発揮できるリーダーシップというものもあるのではないか。半面、同省と近いだけに無責任に言いたいことを言うというわけにはいかないに違いない

▼綸言汗のごとし、である。