伊勢新聞

2024年4月3日(水)

▼奇妙な時代になった。新年度を迎えた1日、新規採用者辞令交付式で、一見勝之知事は「公務は県民を守る崇高な仕事」として奮起を促すとともに「いかなる県民にも怒鳴られたり、罵倒されたりするいわれはない。カスタマーハラスメントを受けた場合は、気軽に相談してほしい」

▼全体の奉仕者を法で義務づけられた職員が、その最初の日に、それと同列に県民からのハラスメントをはねつける態度を求められる。異例なのではないか。同日にいわゆる事務系ではなく、外向けの事業系を担当する副知事、野呂幸利氏が、就任会見で抱負として「職員の声に耳を傾け」ることを強調し、県民に触れなかった。異常ではないか

▼職員ファーストが、人材難時代のトレンドということかもしれない。職員が特定の県民に怒鳴られたり、罵倒されるのは最近では津市の特定自治会長問題が思い浮かぶが、県でも3年前、内水面漁協が県工事を請け負う業者から補償金をを脅し取ろうとした事件が浮上している

▼警察は漁協と県が“共犯”と公言してはばからなかったし、裁判の経過で業者が「県に促された」「相談しても見ぬ振りをされた」などの証言が相次ぎ、知らぬ存ぜぬを決め込んでいた県も、一転して陳謝した

▼脅しや罵倒に弱腰になる県の体質が浮き彫りになり、津市も県も、担当者に対応を丸投げし、自分は事なかれ主義に徹したことが、行政への不法介入が日常化した原因だった

▼せめて新規職員にはそうならないで、長いものに巻かれるなという知事のエールかもしれない。