伊勢新聞

大観小観 2024年3月16日(土)

▼NHK大河ドラマ『光る君へ』により、平安時代が注目されている。ドラマの内容はもとより、描かれる文化、生活、風俗が現代人には新鮮だ。そのうち二つの点を特記してみたい
▼一つ目は、当時の政治をつかさどる貴族たちがみな教養人、国際人であったこと。男は漢詩文、女は和歌の素養がなければ重用されなかった。紫式部のような女房たちは、『古今和歌集』1111首を全部暗記していたという。中国文明は当時の最先端文明。それを身につけていないのは、英語、ITができないようなもの。現代の政治家と比べたら雲泥の差だ
▼もう一つは、この時代が「中世温暖期」で現代の地球温暖化と変わらぬ気候だったこと。住居が寝殿造だったのはそのためだ。寝殿造には外周の壁も天井もなく、床は板敷。室内は部屋ごとに仕切られておらず、几帳(きちょう)、衝立(ついたて)、屏風(びょうぶ)などで囲われているだけ。つまり、冬は寒風が吹きさらしだった
▼しかし、当時は夏の暑さをどうしのぐかの方が重要で、寝殿造はその最適解。清少納言は都の猛暑は耐え難いと嘆き、『枕草子』にも『源氏物語』にも「かき氷」を食べていたことがつづられている。