「(給料の高い)三重県の男性と結婚したら豊かな生活ができるというキャンペーンを打つ」。津市内で16日に開かれた県幹部と市町長の協議会で、伊藤徳宇桑名市長がそう発言した。県が新年度に取り組む「ジェンダーギャップ解消」への指摘だったが、廣田恵子副知事が「男子に女子は頼ればいいみたいに聞こえる」と苦言を呈するなど、波紋が広がった。他方、県もジェンダーギャップと県外流出の因果関係を見いだせてないのが現状。施策の効果も疑わざるを得ない。
伊藤市長が発言した場は、今月16日に津市羽所町のアスト津で開かれた「県と市町の地域づくり連携・協働協議会」。県は来年度から、ジェンダーギャップの解消に向けた取り組みに注力することなどを説明し、市町長に協力を求めた。
男女の賃金格差で三重が全国最大となったことを問題視する県に対し、伊藤市長は「男性の所得が全国8位、女性の所得は24位。この差が大きいので47位。悪いんですかそれ。県民の所得向上を一番に置くことが大事」と指摘した。
これに続けて「逆に言えば、三重の男性と結婚したら豊かな生活ができるというキャンペーンを打つ」と発言。「所得が高く、生活コストが低いことを県外の女性にアピールし、結婚する人を増やして出生率を上げる」と持論を展開した。
この発言に、廣田恵子副知事が反発。「行政マンとして一つ」とした上で「これはちょっと、都会で言ったらかみつかれるような内容だと思う。男子に女子は頼ればいいみたいに聞こえる場合もある」などと苦言を呈した。
現場で伊藤市長の発言に特段の指摘をしなかった一見勝之知事も、21日の記者会見で「(伊藤市長の発言を)驚きと違和感を持って聞いた。適切ではない気がする」などと指摘。廣田副知事の苦言には「むべなるかな」と理解を示した。
伊藤市長は本紙にメールで発言の真意を回答。女性の賃金を引き上げる取り組みに「全く異論はない」としつつ「北勢の市町が製造業の誘致に努力してきた結果を、ジェンダーギャップとして示されるのは受け入れられない」などと訴えた。
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ジェンダーギャップ解消に向けた取り組みは、県が「最重要課題」と位置付けてきた人口減少対策の一環だ。毎年約4千人の「転出超過」に悩む県は、県外に転出する人の約八割が若者で、その6割近くを女性が占めていることに着目した。
さらに、昨年3月に公表された「都道府県版ジェンダーギャップ指数」で、三重がフルタイムの仕事に従事する男女間の賃金格差で最下位だったことを問題視。転出超過を招いている大きな原因にジェンダーギャップがあると導き出した。
一方、県は男女の賃金格差と女性の県外流出に「相関関係」を見いだしただけで、因果関係があると把握したわけではない。因果関係を示す根拠について尋ねると、県の担当者は「まだそこまでは。今後の調査で確認したい」と語るのみだ。
県は新年度予算でジェンダーギャップ解消の事業費に2億2700万円を計上したが、働きやすい職場づくりのセミナーや、男性に育児休業の取得を促す中小企業への奨励金支給など、聞いたことのあるような事業ばかりで効果は疑わしい。
男女の給与差が少ない情報通信産業の誘致も目指すが、ジェンダーギャップ解消を目的とした施策と言えるだろうか。新年度予算を伝える新聞でも、ジェンダーギャップ解消は目立たず。記者から「既存事業の寄せ集めでは」との声が漏れた。
ところで、その県職員らも男女の給与格差が大きい。令和4年度の格差は都道府県でワーストだった。「女性の管理職登用や働きやすい職場づくりを地道に進めるしかない」と人事課。まずは足元の課題に手を付けるべきではないだろうか。