動物虐待に当たるとの批判が上がっている多度大社(三重県桑名市多度町)の上げ馬神事(県無形民俗文化財)について、大社側は22日、今年も5月に神事を開催すると発表した。外部委員らでつくる「在り方検討会」の提言に基づき、馬が飛び越える約2メートルの壁を撤去するなど、大幅な改善策を講じた上で実施する方針。
大社によると、検討会は壁を完全になくして坂の勾配を緩やかにすることに加え、土の走路に砂を敷くよう提言。乗り手の練習は早期に実施し、馬には事前に坂で訓練をさせるよう求めた。
関係者からは「壁をなくさないでほしい」との声も上がっていたというが、検討委は動物福祉に配慮して神事を継承させていくためには「壁の撤去が不可欠」と結論づけた。
また、乗り手に竹鞭(むち)を持たせないよう求める声もあったというが、検討会は「衣装の一部」として持たせるよう提言。柔らかい素材に変更し、馬への合図のためだけに使うよう求めた。
検討会は多度大社や御厨総代会、県、桑名市のほか、馬術の専門家や獣医師、学識経験者ら9人の外部委員で構成。昨年10月から3回の会合を経て、同12月20日に提言をまとめた。
大社側は提言を全て受け入れる方針。勾配を緩やかにした坂を3月にも完成させる。「馬への暴力や威嚇はしないよう厳しく指導し、守れない者は馬の取り扱いなどを禁止する」としている。
平野直裕権宮司は22日の記者会見で「馬の安全や福祉への配慮が足りなかったことを強く認識した」と説明。「時代に合い、社会に受け入れられる神事にしていく」と述べた。
検討会の外部委員を務めた県馬術連盟の河北浩峰理事長は会見で「思い切った改革を決断し、伝統ある上げ馬神事が時代に合った形で後世に継承されると信じている」と語った。
昨年5月の上げ馬神事では、転倒で骨折した一頭が殺処分となった。県教委は昨年8月、文化財保護条例に基づき、多度大社に安全管理の徹底などを求める勧告を出していた。
福永和伸県教育長の話 公表された内容は、専門家などの有識者を交えた検討会に意見を求めた上で決定されたと聞く。県教委から勧告した動物愛護や安全管理に関して一定の改善が見られたものと認識している。県教委としては、その対応を待ちたい。
伊藤徳宇桑名市長の話 安全が大前提で無事に開催されることを願う。関係者への誹謗(ひぼう)中傷が横行し、生活が脅かされる事態に陥ったことは看過できない。昨年11月には神社への爆破予告があり、参拝が停止された。こうした行為は厳に慎んでもらいたい。