伊勢新聞

2024年1月17日(水)

▼旧幕府海軍副総裁の榎本武揚が率いる艦隊のうち、修理で清水湊に停泊した咸臨丸が新政府海軍の攻撃を受け、全員殺害された。遺体は湾内に放置されて腐臭が漂ったが、新政府を恐れて誰も処理しようとしない。見かねて幕末の侠客で博徒の清水次郎長が収容した

▼新政府軍が問題にしたが「死ねばみな仏にござる。仏に官軍も賊軍もない」と突っぱねて名をあげ、維新後は事業家の道を進むことになる。阪神・淡路大震災(平成7年)の時は広域暴力団が被災者救済の炊き出しに駆けつけ、機敏な活動が喜ばれていると報じられていた

▼東日本大震災(同23年)では、被災者の明るい言動が海外の支援部隊を驚かせた。「絆」が尊重され、その年の新語流行語大賞にもなった。そんな日本人の精神、美風が様変わりしたということか。能登半島地震の避難所を訪ねてさまざまな困り事相談に対応した県警特別生活安全部隊隊員の報告によると、犯罪に対する不安の声が多かったという

▼盗難を警戒し車の中で寝るなどの話は聞かされていたが、実際「夜間に県外ナンバーの車が走っていた」「見かけない3人組が自分の家を見て歩いている」などの相談を受けたという。別に、損壊した屋根を覆うブルーシートを高額で売りつけられたなど、悪徳商法などの相談も石川県に9件寄せられている

▼ただでさえ生活不安を抱える被災者が、これでは心を落ち着かせることなどできない。ここは一番、警察官にはより一層、被災者に寄り添ってもらいたい。「乃公(だいこう)出(い)でずんば」である。