伊勢新聞

2023年12月31日(日)

▼本紙の年末企画は政・行政中心の「1年を振り返って」、世間一般の「歳末点描」、警察の動きの「みえの事件簿」が恒例だが、今年はその「事件簿」に「津市女児虐待死事件」が登場した。若い記者の感覚は、警察官が盗撮目的で名古屋の住宅内覧会に参加したり、贈収賄事件より、児童の命が失われたことの方が“事件”なのだろう

▼児童相談所が深く関わりながら防げなかった2件の幼児虐待死事件から十数年。またも悲惨な結果を招いた。当時、検証委員会の委員らからお粗末と指摘された職員の虐待対応スキルは、さらに磨きがかかった感がある

▼多忙な児相の事務処理を軽減し、未熟な技能を補う目的で導入されたAⅠ(人工知能)が、緊急対応をしなかったことの言い訳に使われる始末。検証委が再発防止策として最も強調した市町との連携も、津市の前葉泰幸市長が「市としてもっと(児相へ)強いアプローチができなかったか、もっと踏み込まないといけなかったのではないか」と改善されていないことを示唆した

▼「あくまでも権限と責任は県にある」とも言い、当時と変わらず市職員は県の管轄に立ち入ろうとしない体質が続いていることも事実上、認めた。県児童相談センターは、2件の幼児虐待死事件を受けて、児相を統括する組織として10年前、創設された

▼所長は当時、児相のあり方、職員の認識を改めるのに懸命で、各所で指導にもあたった。今回所長は「通告時点の判断として間違っていなかった」。AⅠも児相センターも教訓は10年ももたなかった。化粧直しし、新たな対策が生まれる。