2023年12月28日(木)

▼日本漢字能力検定協会が一般から募集して選ぶその年の世相を表す漢字ひと文字は今年は「税」だった。この字の好き嫌いはともかく、今年の世相を表すことに異議はあるまい

▼参議院補選の応援演説で徳島入りした岸田文雄首相に投げられた「増税メガネ」のヤジが瞬く間に拡散したのも、鬱憤(うっぷん)が国民一人一人の心にマグマのように渦巻いているからだろう

▼一見勝之知事が年内最後の定例記者会見で今年の一字にあげたのは「戻」だった。こちらは、説明を聞かなければ何のことか、すぐに分かる県民は少ないのではないか。知事が今年一年、最も印象的だったとするG7三重・伊勢志摩交通相会合とも、事業化から40年を経て全線開通した中勢パイパスとも、何の関係もない

▼新型コロナの5類移行で「県民の生活が徐々にコロナ前の状態に戻りつつある」こと。すなわち経過の事象を見ている。昨年あげた「今年の一字」は「復」だった。「戻」は、辞書に「もとの状態に復すること」とある。知事も昨年、コロナの対応で観光や宿泊など、それぞれの業界で「復調の兆し」

▼2年連続で同義の言葉を選んだことになる。見つめた現象が進んでいるのか停滞しているのかは見方が分かれようが、為政者としては結果がはっきりしたことより、今の懸案事項の方にどうしても考えが向いてしまうということかもしれない。言葉で県をもり立てるというには、知事はまだ政治家ではなかった

▼一年を振り返って純粋に漢字一文字で表すとすれば、コラム子なら「謝」になるか。「感謝」でなく「陳謝」の「謝」だが、むろん知事の足元にも及ばぬほど政治家ではない。