伊勢新聞

2023年12月26日(火)

▼30歳をとうに越えた娘が―2日前のことだが―「明日の朝は枕元にプレゼントを置いておくように」と言った。そうか、今夜はクリスマス・イブかと気づいたが、そんなことを言われたのは初めてで、プレゼントを置かなくなってからでも20年以上経つ

▼その最後のイブは姉妹2人なかなか眠らない。こそこそ動く気配がする。枕元にプレゼントを置くタイミングがつかめず、こちらも静かに様子をうかがい、深夜意を決してそっと置いたが、たちまち「やっぱりお父さんだ」と騒がれてしまった。「誰が置いていくの?」「サンタさん」という親子のやりとりが2年ほど続いた後のことだった

▼娘の心にはささやかなイブの“イベント”が強く残っているのか。幻想的出来事として―。そのころの12月は早々津市中心の商店街からジングルベルが大音量で流れ、手にケーキをぶらさげ千鳥足のサラリーマンが描かれるのが定番だった

▼本紙恒例の『歳末点描』の今年のクリスマス・イブは南伊勢町で、子どもたちが75歳以上の一人暮らしのお年寄りにケーキを届けたことを伝える。「臘八(ろうはち)のあとにかしましくりすます」は明治25年、我が国初めてクリスマスを取り入れた正岡子規の句。130年を経て、我が国のクリスマスも落ち着いた風景になった

▼ケーキをはさんでお年寄りと子どもたちが気持ちを通わせるのがほほえましい。個人的には妖精に導かれ過去、現在、未来を旅するディケンズの『クリスマス・キャロル』がこの時期脳裏によみがえる

▼来し方を振り返り幼児体験の重さを思う。