伊勢新聞

2023年12月17日(日)

▼「25歳から50歳までの25年間は結婚、子育て、仕事に追われる毎日、私にとっては激動の年月であったが。今となれば特に言葉として留めておきたいものもない」。菰野町菰野の谷尚典さんが随筆集「湯の山 夢谷庵 壺中天のつぶやき」(風媒社)で書いている

▼福岡県北九州市八幡東区生まれ。高校卒業後は第一銀行に入行し、合併したみずほ銀行を定年退職後、菰野町に焼き物の窯を造って「夢谷庵」と名付け住むようになった

▼「50歳を過ぎて定年(60歳)を意識しだした。この頃からやきもの作りが面白くなり、定年後のスペインの旅が夢になり、スペイン語の勉強を始めた」

▼最後のエッセイは退職前に28歳の娘を亡くした出来事と友人の死をつづる

▼「一人でスペインのサンティアゴ巡礼の道を歩いた」「この旅で夢の中で娘に会った。『お父さん相変わらずね。家をほったらかして旅をするなんて、相変わらずね』。それから時々出てきては『相変わらずね』と言って消えていった」という

▼題名はラテン語の警句「メメント・モリ」。「死ぬことを忘れるな」を意味する。