救急空白地域の発生を防ごうと、三重県の津市は今月1日から機動的に出動できる救急隊「MOA(Move Over Ambulance)」の運用を開始した。従来の救急車の配備に加え、より横断的で柔軟に動ける救急隊を設けることで、逼迫(ひっぱく)している出動状況への対応や現場到着時間の短縮につなげる。また、日中の時間帯を中心に運用し、隊員の多様な働き方にも対応する。
MOAは救急隊が出動中で、空白となった地域への出動要請に応じるほか、出動が多発し、空白地域となりそうな場所であらかじめ待機するなど、署や分署の枠を横断して機動的に稼働するのが特徴。市によると、こういった救急隊の配備は県内初という。
市では現在、4署8分署に救急車計16台を配置している。このうち、久居消防署に配備の1台をMOA専用救急車として稼働させる。久居に設けるのは、隣接する白山地域の面積が大きい一方で、配備する救急車が他署に比べ少ないなど空白地域になりやすいため、より効果が期待できると判断した。
導入にあたり、熱中症など救急件数が増加する8月から11月末まで試験運用を実施した。例えば一志町高野で発生した救急事案では、一志分署と久居消防署の救急隊が出動中だったため、通常は白山消防署が対応するところをMOAが出動。この結果、白山から現場まで約15分かかるところが約9分となり、約6分間の時間短縮につながった。
市が導入に踏み切ったのは、県内で最も広い面積を有することが背景にある。到着に時間がかかる上、特に人口が少ない旧郡部では救急の空白地域になりやすい懸念がある。救急件数も昨年1万7589件と前年比20%増の過去最高となった。救急需要は年々増加傾向にあり、逼迫している。
隊員の多様な働き方にも対応する。救急要請の51%を占める日中の時間帯を運用の中心に据えることで、子育て中で24時間勤務が難しい職員や、来年度から実施される定年延長に伴い、60歳以上の職員も救急隊員として働きやすい環境を整える。
実はこのMOAの運用は職員のアイデアから導入した。提案したのが市消防救急課救急担当主査で救急救命士の小野麻衣さん(39)。小野さん自身、子育て中で約13年半、臨時で出動する以外は日勤のデスクワーク中心に働いてきた。
小野さんは救急統計などを手がけており、データ分析の結果、日中の出動件数が多いことや、空白地域の懸念があることが判明。さらに、育児中の職員らから現場復帰を望む声も寄せられていた。コロナ禍で出動件数が急増したこともあり、現役の隊員が疲弊していたことも、新たな体制の構築を検討することにつながった。
小野さんも1日にMOAの救急隊長として復帰した。「患者の皆さんが救急車を待つ時間は想像以上に長く感じる。空白地域をなくし、少しでも到着時間の短縮につなげることで安心感を与えられるようにしたい」と意気込む。
「MOA」という名称も職員が考案した。他の救急車と差別化を図るため、車体には赤のラインに青の線を加えたほか、職員がデザインを考えた独自のエンブレムも施した。
市消防では「ブルーラインのMOAが出動しているときは市内の救急車が逼迫している可能性がある。救急車の適正利用をお願いしたい」と呼びかけている。