伊勢新聞

2023年12月4日(月)

▼無免許医師が主人公の人気漫画『ブラック・ジャック』が作者の手塚治虫の死後、生成AI(人工知能)を使った複数のクリエーターチームが“新作”をつくり、秋田書店の少年漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」に掲載されて評判になった

▼森鴎外や夏目漱石の“新作”も読める時代がくるのかもしれない。ピカソやベートーベンなど生成AIは芸術の分野でも、活躍の舞台を広げている。作者の死後も連載が続いていることでは、小学館の漫画雑誌「ビッグコミック」掲載の『ゴルゴ13』がある。こちらは暗殺者が主人公だが、どちらも高額の報酬を要求し、引き受けると神業のような腕で成し遂げる

▼作者さいとう・たかをは分業制のプロダクションを設立し、アイデアから作画まで、本人がいなくなっても制作できる体制を築き上げた。漫画の神様と言われる手塚治虫は劇画ブームに押されて読者が離れ、秋田書店が最後のつもりで依頼した短期連載が『ブラック・ジャック』だとされる。どこか通底するものがある

▼「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」など、多くのテレビドラマを手がけた脚本家の山田太一さんが死去した。時代から取り残されそうな人々を描いて社会に衝撃を与えたが、連続ドラマから手を引いて久しい。あらゆる分野の専門家を集めてチームで制作することに反発していた

▼ヒット作品のエキスがちりばめられ、冒険や無駄はそぎ落とされる。そこそこ視聴率を稼ぐ無難な作品しかできない、というのである。その仕組みが高度になる生成AIの活躍を、山田さんはどうみていたか。