伊勢新聞

2023年12月3日(日)

▼県外郭団体の県厚生事業団が運営する障害者入所施設「県いなば園」がまだ県が直接運営していたころ、年に一度運動会が開かれ、家族や地域住民が参加していた。県OBの園長の誘いで娘と加わり楽しんだが、その時の写真は、後の娘の結婚式で会場で紹介されたアルバムの一枚に選ばれていた。「県いなば園、また虐待」という本紙見出しの「また」の文字に心が痛む

▼現実の運営が、そんな一時に垣間見る和やかさと異なることをまざまざと見たのは、昭和62年に三重大医学部付属病院の医師2人がB型肝炎で死亡した時だ。急きょ県立病院の医療従事者にワクチンが配られたが、いなば園園長が日頃の温厚さと打って変わった厳しい表情で県に乗り込み、同園職員へのワクチン配布を求めた

▼B型肝炎は当時、注射針からの感染とされていたが、同園職員が入所者からかみつかれることはしばしばで、命に関わるというのである。園は開放型だったが、暴れる入所者にあぐね、カギのかかる部屋に閉じ込めて、転落死させてしまったこともある

▼県が同園を県厚生事業団に移譲したのは平成14年。指定管理者制度が実行された時。今年9月に求めた通常の報告で「知事等の総括コメント」は「令和3年度の虐待事案の再発防止を改善計画に基づき取り組み、その中で起きた同五年の事案は検証等を徹底して必要に応じ計画を見直す」など指示している

▼直後に発生した虐待事案で、県は特別監査を実施するという。後手の気はするが、県立時代の不祥事が表沙汰にならなかったことに比べると前進かもしれない。