伊勢新聞

<まる見えリポート>職員逮捕も県庁内は平然 県発注工事巡る贈収賄事件

【小野弘春容疑者(フェイスブックより)】

三重県企業庁発注の水道設備工事を巡り、県職員ら3人が贈収賄容疑で逮捕された事件。受託収賄容疑で逮捕された2人は、長年にわたって土木分野を渡り歩いてきた。贈賄側の会社は「この数年で急成長した」(業界関係者)といい、事件の背景が注目される。一方、県庁では31年ぶりの贈収賄事件の発生に騒然かと思いきや、大方の職員は平然とした様子。事務処理のミスや教員のわいせつ行為など、相次ぐ不祥事に悩まされる一見勝之知事にとって大きな痛手のはずだが、今のところ目立った動きはない。

「北勢水道事務所発注の工事を落札するのは、ほぼほぼ新井さんの会社」。県職員から入札の指導を受ける見返りに現金を渡す約束をしたとして逮捕された新井政智容疑者(45)をよく知る同業の男性が明かす。

新井容疑者の土木工事会社「新陽工業」について、男性は「この数年で従業員や事業の規模が急激に増えた」と解説。最近は別の会社が受注してきた水道関連の保守業務を落札したことに驚いたという。

一方で「まさか新井さんがそんなことをするとは」と語るのは、新井容疑者とプライベートで付き合いのある男性。「会社も順調そうだった。そこまでせざるを得なかった理由が見当たらない」という。

他方、受託収賄容疑で逮捕された元県職員の小野弘春容疑者(60)について、元同僚は「特に目立った印象はない」と語りつつ、SNS(交流サイト)ではドイツ製高級スポーツカーの隣に立つ写真が目立つ。

平成2年に土木の技術職で入庁。とりわけ事件の舞台となった北勢水道事務所では、通算で11年間にわたって勤務した。同じく受託収賄容疑で逮捕された県職員の酒德和也容疑者(57)も土木の技術職だ。

ある職員は技術職について「行政職に比べて同じ職場が長くなりがち。彼らだけの世界がある」と指摘。「長く同じ場所で働けば出入り業者とも親しくなる。入札の業務も知り尽くしているはず」と観測する。

■  ■

今回の事件で注目が集まっているのは入札金額に技術力などを加味する「総合評価方式」だが、それはあくまで課題の一つだろう。問題の根幹にあるのは、かねてから県が悩む「職員の資質」に他ならない。

県では本年度、公文書の紛失や個人情報の流出といった不祥事が多発。今回の逮捕も、県教委が女子中学生へのわいせつ行為で男性教諭を懲戒免職処分にした翌日という「タイミングの悪さ」(県職員)だ。

県総務部では、職員らが情報収集などに追われている。腕を組んで対応に悩む幹部の姿も。棚に並ぶ新聞各紙に貼った付箋の意味を尋ねると、職員が「事件の記事。見やすいように」と小声で教えてくれた。

他方、別の部では「捕まった職員は、どんな人なんやろ」「今ごろ企業庁は大変やろな」。県庁とは「別組織」の事件だからか、逮捕されたのが技術職だからか、どこか他人事のような会話が飛び交う。

今のところ、県が早急に再発防止に取り組もうとする気配はない。事務処理ミスの多発では一見知事が緊急の庁議を開いて再発防止を指示したが、今回は報道機関に配布した一枚のコメントにとどまる。

「事件のことが何も分からない。事実関係を確認しないと」。具体的な対応が決まらない理由について、県幹部はこう説明する。ただ、確認の方法を聞いても「どうすれば良いのやら」と困り果てていた。