▼喜劇王チャップリンも、米国移住後の人気はいま一つだったという話がある。『街の灯』なんかの入りが閑散としているのに、隣で上映している二丁拳銃なんかが満員で、観客が笑う場面も、いわゆる泣き笑いの泣きの部分が分かっていないあっけらかんとした笑いだと繊細に分析している評をみたことがある
▼日本人の琴線に触れるのもこの泣き笑いといわれ、寅さんが老若男女を通じて人気のあるのもそのためだが、映画観賞に限っては米国ナイズされている筆者は、山田洋次監督作品というと『幸福の黄色いハンカチ』ぐらいしか見なかったのは、大方の日本人に申し訳なかった
▼今また、90本目の監督作品『こんにちは、母さん』が上映中で、主演の吉永小百合さんら出演者が、監督の92歳の誕生日を祝い、吉永さんが「百寿、百本を目指してください」と述べたというが、筆者の関心はそこではなく、監督と吉永さんがそろって出演したテレビ朝日の『徹子の部屋』の場面なのは大方に申し訳ない気がする
▼当然なのかも知れないが、驚いたのは監督の声が聞き取りにくかったのに対し、吉永さんの明瞭な声である。「テレビの音が大きいといわれませんか」という補聴器のCMに思い当たっていた身としては、吉永さんの大声でもなく、しかしはっきり聞き取れる声に目を見張った
▼別のトーク番組で女優の名取裕子さんが「共演者の声が聞き取れなくて」。リアリティーを要求され、ぼそぼそ声の俳優が増えたという。「昔は、つぶやくように、はっきり言ったが」
▼本人はむろん名優のつもりに違いない。