2023年8月29日(火)

▼俗に、毒にもなれば薬にもなる、という。誰もが実感していることで、病院で処方される薬に「間違った処方はあってはならない」というのは、外来患者九人に本来とは異なる薬を処方した県立総合医療センター薬剤部長の言葉を待つまでもない

▼作家遠藤周作の妻、順子は著書『夫の宿題』の中で、夫は糖尿病という主治医の診断で食事療法に取り組んだが、担ぎ込まれた入院先で知らされたのは別の病名。自分が調理した食事はことごとくその病気には毒に等しかったと、主治医に恨みの言葉を綴(つづ)っていた

▼医師が出す薬を飲まない患者も増えているそうだが、センターの患者は六人が全部飲んだ。うち一人が副作用とみられる皮疹の症状が出たが、すぐに治った。原因は、システム更新作業の誤りで、抗菌薬の「サワシリン」が、副作用の多い「バクトラミン」に変換されて処方箋に記載されていたというからみずほ銀行を思い出すが、一つ歯車が狂っていたら、同銀行の混乱を上回る悲惨なことになっていた

▼不幸中の幸いといえるこの結果を理由に、センターは公表はもちろん、県にも報告していなかった。なかったことにしよう、ということだろう。「あってはならない」という薬剤部長の言葉とどう整合するか

▼どちらもセンターにとって“正しい”選択だったに違いない。責任問題が真っ先に幹部の頭をよぎったか。「外部から意見を受けて再協議し、事案の重大性を考慮して公表することにした」

▼善男善女なのである。だからシステム点検をそこそこに幕引きをはかる危険はあるし、外部の目が必要なのだ。