伊勢新聞

2023年5月31日(水)

▼岸田文雄首相がまた態度を一転させた。昨年末、公邸で親族を集めて忘年会を開いたという長男の秘書官を6月1日付で事実上更迭する。当初は「厳重注意」にしたとし、野党側からの罷免要求を拒否していた

▼公邸の赤じゅうたんで、組閣写真を模したような親族との集合写真を撮り、自身が中央に収まっていた。「不適切」とした岸田首相も会ではあいさつをしていた。安倍晋三元首相の桜を見る会を連想させる。公費で後援会員を優遇したとされたが、こちらは公務で使用するスペースだ

▼踏襲するにしろひっくり返すにしろ、新任者は前任者の言動に影響されるものに違いない。安部元首相がサミットに伊勢志摩を選び、岸田首相が広島に決めたのは精神性の重視で似ているが、岸田首相はさらに「実利」を求めた

▼安部元首相の昭恵夫人と岸田首相の長男はどうか。どちらも公私混同が目につくが、昭恵さんはエリート官僚が付き従い、意向を政府に伝える橋渡し役がいたのに対し、長男は政務秘書官というれっきとした公職にあるということか

▼共通するのは、たとえば長男の公用車や公邸の私的使用など、どこから掣肘(せいちゅう)などなかったらしいことだ。首相自身、私的スペースでの会食にあいさつをしている。結果は安倍元首相と異なる経緯をたどるが、いといえようか。首相の金看板「聞く力」について、ほとんど聞かれなくなってしまった

▼三国志の英雄、呉の周瑜は曹操との戦いの是非を国内両派の意見を聞き、どちらにも期待させた上で、決戦に踏み切った。岸田首相の聞く力とはしょせん違うのだろう。