伊勢新聞

2023年5月25日(木)

▼鈴鹿市でブラジル人女性が殺害された事件で、県警は別居中の夫と娘、娘の内縁の夫の3人を強盗殺人の容疑で逮捕した。女性の帰宅を3人で待ち伏せ、夫が刃物で首筋に切りつけて殺し、金品を奪ったというから、夫が逮捕前、報道陣に語ったという「夫婦仲は良くはなかったが、殺すはずがない」を、さもありなんと聞いた身としては呆然とするしかない

▼気になるのは、夫の職業が「自称運転手」で、娘と内縁の夫は無職。まともな職に就いていないらしいことだ。殺された女性だけが「工員」と報じられている。別居の理由は積もり積もったことが複数あるのだろうが、きっかけは、夫が洗剤などを外に持ち出したことという

▼鈴鹿市では数年前、息子の友達と結婚した女性が、息子の別の友達と愛人関係になり、その愛人と共謀して、夫を殺害したとして逮捕された事件があった。愛憎劇である。それに対し、ブラジル人家族が起こしたという殺人事件は、経済問題が動機なのではなかろうか

▼夫婦は約30年前来日し、女性は茨城県の水産加工会社や県内の自動車工場などで働き、子どもも2人産まれた。その後の経済の振幅とコロナ禍は特に外国人労働者に深刻な打撃を与えたといわれている。また、ブラジル人は戦後日本によく似た共同生活社会である

▼隣近所が家族同然に助け合うし、ブラジル人の友人を一度泊めると友人の友人、そのまた友人が我が物顔に出入りするようになり弱った、と知人が言っていた。そうした濃密な人間関係の中で起きたやはり愛憎劇。行き違いが招いた悲劇なのかもしれない。