大都市圏への一極集中や、少子高齢化による人口減少社会が問題となる中、自治体では地方への人の流れを呼び込む移住促進に注力している。県でも平成27年に東京都内に移住相談センターを設け、各市町と連携して魅力をPRしている。県南部に位置する御浜町では主要産業の一つ、ミカンの産地を持続可能なものとするため、後継者の育成と合わせて移住促進に取り組み、一定の成果を上げている。一方で、使用できる空き家が不足しているなど、移住者の住宅問題なども課題として浮上している。
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御浜町では昨年3月にプロモーションサイト「青を編む」を立ち上げ、YouTubeやツイッターなどSNS(交流サイト)を駆使した情報発信を展開。これまで年数件だった問い合わせが27件に急増し、今年4月までに新規で9人がミカン農家での研修を開始することになった。
内訳は奈良、兵庫、京都、愛知の各府県と津市からの移住が6人、地元3人。平均年齢は48歳、年齢幅は33歳から58歳という。今夏には新たに2人参加予定という。
町の農家人口は激減している。約20年前の平成12年の3131人から、令和2年は約5分の1の662人に落ち込んだ。担い手の高齢化も加速し、産地維持には「待ったなし」の状況が続く。
町では、ハードルが高いと思われがちなミカン農家でも、1人からできる新規就農サポートや支援制度を整備し、安心して農業を行える環境づくりを進める。また、今年度から県内で初めて、町職員が柑橘類の生産に限り、副業を可能にした。町を挙げて持続可能な産地維持に力を入れる。
移住や新規就農に興味や関心を向けてもらう「入り口」も重要だ。町では既存のホームページなどの情報発信から新たなサイトを立ち上げることで魅力アップや訴求力を高め、反響を呼ぶことにつなげた。
サイトを運営するのは一般社団法人ツーリズムみはま。手がける辻本安芸さん(37)自身、千葉県出身で東京でマーケティングの仕事に従事していた移住者だ。「『みはま』という名前すら知らなかった」という辻本さんだが、南紀や東紀州への移住に興味を持ち、3年前に夫婦でこの地に移り住んだ。
移住の決め手は「望む仕事があったことが大きい」とするが、町民の親切に触れたり、相談に乗ってくれた人の感触が良かったりと「人のご縁があった」ことも大きいという。
「満員電車がつらかった」と辻本さん。「海は青く、緑は豊か。バーベキューやたき火を楽しんだり、山を見ながら本を読んだりと、自然豊かな環境をベースに暮らせることは幸せ」と話す。
一方、移住者の住宅問題も顕在化している。東紀州で農業を経営する男性は県外から毎年、若者らを雇用するが、空き家はじめ住宅確保が難しいという。全国的にも空き家は増加傾向で、社会問題化しているが、実際に借りられる空き家は少ないとする。辻本さんも「ぎりぎりの状況で確保している」とする。
男性は「移住者にとって一番のハードルは住居問題。毎回手を尽くして探している状況」と指摘。「特に単身者が住めるような住居が少ない」とし、「田舎では空き家でも手放したくないという気持ちが強く、活用がなかなか進んでいない。行政として住環境の整備を進めてほしい」と注文する。
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県では都内に相談窓口「ええとこやんか三重 移住相談センター」を開設し、移住促進に取り組んできた。移住者数は27年度の124人から右肩上がりに上昇し、令和3年度は541人に。6年連続で過去最高を更新している。
今年度注力しているのが関西圏、中京圏への集中的なアピールだ。3年度の移住者の出身地域は近畿が42%と最も多く、次いで東海の25%と続く。近鉄で一本で来られることや、修学旅行先に県内が多いなど、両地域にとって県は身近な存在で、移住をイメージしやすいことも大きいという。
山﨑章弘県移住促進課長は「いかに三重に目を向けてもらえるかが重要」と述べ、「ライフワークに沿った暮らしの実現のために、三重を選んでもらえるよう取り組みを進めたい」と意気込む。
とはいえ、移住促進は全国各地で行われ、東京都ですら実施している。他県との競争激化のみならず、国内の円安や賃金安などでオーストラリアやカナダ、アメリカなどへ働き口を求める若者も増えている。いかに「選ばれる三重」になるか、真価が問われる。