▼組織に停滞は許されない。国防となればなおさらで、ヘリコプター事故で死亡した陸上自衛隊第8師団長の後任師団長青木伸一陸将が着任し「『地域に愛され、信頼される師団にする』という志を引き継ぐ」と記者会見で語った
▼伊勢市小俣町明野に航空学校を擁する陸自明野駐屯地を抱える県にとってヘリコプター事故は珍しくはない。ひと昔前は毎年のように山林などへの墜落事故があり、捜索報道に忙殺された。訓練校の性格からほとんどは操縦ミスが原因と発表されたが、第8師団のケースは師団長はじめ幹部が搭乗し、操縦士も選りすぐりのベテランと報じられている。飛行目的も有事に備えた地形の確認とされ、その事故原因が半月を経て不明のままで、人事だけが更新されていく
▼第8師団は熊本、宮崎、鹿児島の3県を管轄し、事故時の視察地は沖縄県の宮古島周辺。いわば日本の国防の最前線を担当する師団の不測の事態に対し、詳細はともかく、原因究明のなんと遅いことか
▼自衛隊は「飽和潜水」と呼ばれる潜水調査を試み、何度も中断した。発見した遺体6体の1体を引き上げられずにいる。フライトレコーダーの回収にも手間取る。機体引き上げは民間業者に10億円で委託した。緊急事態のイメージにほど遠く「信頼する自衛隊」の看板が色あせる感じさえする。反撃能力のノウハウは果たして大丈夫か、不安は増す
▼海上保安庁は捜索を事実上終了した。残る4人の捜索は断念したらしい。「事態の早期収束」「行方不明の隊員の一刻も早い発見と救助」―新師団長の決意・抱負との距離は遠い。