伊勢新聞

「まる見えリポート」鈴鹿市政の課題 移動が不便と市民意見、新たな手段を

【市民が移動手段の1つとして活用する市コミュニティバス=鈴鹿市石薬師町で】

任期満了(4月30日)に伴う三重県の鈴鹿市長選が16日、告示される。選挙を前に、市が昨年実施した市政アンケート調査の結果をもとに、市民の満足度評価が最下位で、最も不満度が高い「地域公共交通の利便性」に焦点を当て、市の課題を探った。

調査は令和6年度からスタートする次期総合計画の策定に向けた取り組みの一環で、市民の市政に対する満足度や市民ニーズを把握するため、6―7月の1カ月間に18歳以上の4千人を多段階無作為抽出して実施。有効回答者数は1378人(34・5%)。

地域公共交通の満足度についての回答結果を分析すると、市内を四地域に分けた地域別では西部、中央、東部の3地域、性別では男女とも、年代別では50代以上の各世代でいずれも最下位となった。そのほか、南部地域はワースト2位、20―40代はワースト3位と、いずれも満足度は低く、全体的な不満度の高さは明白だ。

自由記述では、市のコミュニティバス(Cバス)の拡充を求める声や、「車がないと移動できないところが多すぎる」など、移動の不便さを訴える意見があった。

市は2月定例議会で「現状の地域公共交通ネットワークの維持を基本とし、地域の実情に応じて新たな移動手段の導入を支援していくことで、持続可能な地域公共交通ネットワークの形成を目指す」との方向性を示した。現在、既存の地域公共交通での対応が難しい移動ニーズに対して、地域が主体となった新たな移動手段を検討、導入する場合の手順や行政支援を整えた手引き書を今年度に完成させる計画。具体的には乗り合いタクシーや地域ボランティアの送迎、送迎サービスの活用など、地域特性を考慮した移動手段の可能性を挙げる。

手引き書の作成には令和3年1月から2年間、新たな交通システムの構築に向け、市と一ノ宮地区が協働で実施した乗り合いワゴンによる実証実験の結果を反映させる。

実験結果からは利用頻度が月1回程度という人が最も多かったこと、同地区では四日市市内の商業施設や病院などへの移動や市東部地域の楠、長太ノ浦駅への移動ニーズがあることが分かったという。

一方、すでに地域では8カ所の地域づくり協議会がそれぞれ主体となり、主に高齢者を対象にした独自の移動支援などを進める。地域内の医療機関やスーパーなどを目的地として、利用者の電話予約で有償ボランティアが運転手を務める椿・庄内地区の「おでかけハッピー号」や地区内の介護施設と連携し、施設車両の待機時間を活用した一ノ宮地区の「お出かけ支援事業」のほか、稲生地区の「稲生助け愛ネット」など五地区は、移動のほか病院などへの付き添い支援もする。

市は「現状では対象者が限定されるため、公共交通事業にはあてはまらない」とし、各地域の取り組みを高齢者施策と位置づける。いずれも基本的に地域主体の取り組みのため、長期的に安定した運営ができる保証はない。

市の地域公共交通に対する財政負担は年間約1億3千万円。そのうち、市が主体となるCバスは、新型コロナウイルス感染症の影響で利用者数が減少。令和2年度は前年比約23%減少し、財政負担もこれまで以上に厳しい経営環境に直面する。市は新たな交通システムの構築とともに、Cバスの路線やバス停の見直しなどで効率化を図るための取り組みも進める。

今回の市民アンケートで「市外に転出したい」「転出するつもり」と回答したのは全体の6・2%となる85人。理由として「公共交通が充実していない」(55・3%)を挙げる人が最も高かった。今後、市が「住み続けたいまち」として選ばれるために、新たな移動手段の確保への早急な対応が求められる。

現在、同市長選にはいずれも無所属で、4選を目指す現職の末松則子氏(52)と元市議の永戸孝之氏(68)が立候補を表明しており、一騎打ちとなる見通し。