伊勢新聞

2023年3月27日(月)

▼介護現場で働く外国人にとって方言の難しさが定着を阻害する原因になっているとして、山形県や富山県が方言の解説マニュアルを作成した。脳梗塞で半身マヒ、言語障害になった北海道育ちの父を県内施設でリハビリさせたが、言葉が聞き取れないから言語回復は無理と母に言われた。「食べてください」は「け」、「そうです」は「んだ」などと例示したマニュアルがどれほど役立つか

▼山形は知らず、秋田をはさんだ青森・津軽地方出身の後輩に父親から手紙がきた。「何て書いているのか」と相談にきたので友人らと読んだが、津軽弁を文字化していて、息子の後輩も含めてさっぱり分からない。抑揚、アクセントがいかに大事かを思い知らされた

▼「自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ(話さないよねぇ)」という臨床発達心理士の妻の言葉に疑問を持った松本敏治弘前大教授が研究成果を著書『自閉症は津軽弁を話さない』(角川文庫)にまとめている。自閉症児はその名の通り周囲とのコミュニケーションが不得手な上に、話しかける側が改まった言葉を使うことが多く、テレビが常時流れる環境では標準語、それも感情のこもらない言葉になってしまいがちという

▼松本教授自身は九州出身で、地元民同士の会話は8割方、分からない。しかし、教授と話す時はみんな標準語に近づけて、しかもゆっくり話してくれるので、コミュニケーションに支障はないという

▼外国人労働者に方言を覚えてもらうのもいいが、地元が受け入れや総合的サポート体制をどう整えるかが大切なことは言うまでもない。