三重県が本庁(津市広明町)の将来的な建て替えに向けた準備に着手した。手始めに基金を設けて建設資金を積み立てる方針。完成から約60年がたつ現庁舎の老朽化が建て替えの主な理由だが、背景には財政難から抜け出したという事情もあるようだ。県が想定する建て替えの時期に対し、庁内からは「20年も先のことか」との不満が噴出。現庁舎の「狭さ」を訴える声も多い。ただ、民間の多くが先行きの不透明感などから社屋の建て替えに着手できていないのも事実で、常に県民感情を意識した議論が求められそうだ。
新庁舎の建設を視野に入れる県の方針が明らかになったのは、先月27日に発表された本年度の最終補正予算。本庁などの建て替えに充てる基金を設けて毎年10億円ずつ積み立てる方針を打ち出した。今回の補正予算でも10億円を積み立てる。
県は築59年の本庁と同じく、築60年ほどが経過している県立高11校の建て替えにも基金を活用したい考え。基金の設置に当たり、建設費は本庁を400億円、11校を計440億円と想定した。基金で賄えない建設費は起債で対応するという。
建て替えの主な理由は老朽化。今のところ現庁舎に目立った不具合はなく、平成15年には免震工事も実施した。ただ、管財課の担当者は「鉄筋コンクリート造の寿命は80年が目安とされる」と指摘。将来的なコンクリート部分の劣化を危惧する。
一方、今回の議論が急浮上した背景にあるのは財政状況の改善。かつて深刻な財政難に直面した県は、公共施設の建設を抑制する「ハコモノ禁止令」を出したほどだった。県幹部は「ようやく本庁の建て替えを表向きにも言えるようになった」と語る。
とはいえ、議論は始まったばかり。400億円の建設費はあくまで想定。建設の時期も詳細に決まったわけではない。建設地でさえも「おそらく現庁舎の付近だろう」(県幹部)という段階。具体的な検討に着手した様子もなく、長期的な議論になりそうだ。
■ ■
「なめているのか」。今月2日に開かれた県議会の議案聴取会。舟橋裕幸議員(新政みえ、七期、津市選出)が、県の方針を強い口調で批判した。「私が生きている間に庁舎は完成しないのか」という趣旨の発言も。別室の職員らは中継にくぎ付けになった。
舟橋議員は、建て替えの時期を「20年後」とする県の想定に納得できないらしい。もちろん「完成を見たい」という個人的な意見だけでもなかろう。県幹部は舟橋議員が県職員出身者であることを踏まえて「職員の声を代弁してくれたのかも」と推察する。
庁内でも舟橋議員に負けず劣らずと、県が建て替えの時期を20年後と想定したことに批判が相次いだ。「椅子を少し引けば背中同士が当たってしまう」「会議室と呼べるような場所はほとんどない」など、執務スペースの狭さを訴える声が多かった。
「狭さ」だけではない。折しも県庁の隣接地では、新たな「JA三重ビル」の建設が一日に始まったばかり。岐阜県の新庁舎は昨年12月に完成した。元県職員は「今でも古い県庁の建て替えが20年も先なら、優秀な人材が集まらない」と訴える。
一方、ある職員は「いかに防災や安全性の点から建て替えが必要だとしても、県民に納得してもらうことが重要ではないか」と指摘した。公共施設が行政運営の姿勢を示す重要な要素であることも事実。多額の税金を投じる以上は、県民の理解が不可欠だ。