2023年3月1日(水)

▼志摩の漁師が、後継ぎ息子の出漁を見送りながら「親の忠告に耳を貸さず、メディアの気象情報だけたよりにしている」と言ったと俳人の宇田喜代子さんが本紙『散策路』で書いていた。「海で命を落とすことになるかもしれん」

▼テーマは「失われた観天望気の力」。「観天望気」は昔ながらの天気占いだが、それとともに生きた漁師でさえ気象情報に依存。どうして台風接近をその強度まで祖父母は予測できたのかといぶかりながら、自然の移ろいに鈍感になっていく若者らを見つめる

▼異常気象時代に皮肉な現象。そもそも核家族化で年寄りの言葉に耳を傾ける機会が絶対的に減った。年寄りが個々にはどんな人で、何を考えているかなど分からなくなってきているのではないか

▼アカの他人が「おばあちゃん」と呼びかけるのは随分失礼だというのは作家の岩橋邦枝さん。外国では見ないことで、高井有一著『夜の蝶』には、患者をおじいちゃんと呼ぶ若い女性看護師に名前を呼ぶよう注意する場面があるらしい。県の元教育長で民間に再就職した宮本長和氏は入院した病院で掃除の女性に「おじいちゃん」と呼びかけられ引退を決意したと語っていた

▼運転免許証返納の呼びかけが盛ん。高齢化率が高くなるほど高齢者が事故に巻き込まれるのも多くなる理屈だが、通信社幹部は車好きの父がとにかく高齢だからと免許返納を説得、承知させた。以後老け込む父を見て正しかったかどうか迷いがでたという

▼健康寿命を延ばせという政策もある。「高齢者」というだけでひとくくりにするのは安易というものだろう。