▼昔、鈴鹿市長を批判する怪文書が出回って、本紙が同市長から、この怪文書に基づく記事を書くなと仮処分申請された。怪文書とは「出どころ、真偽不明でうさんくさい文書」。一笑に付したが、津地裁は、うち15カ所を抽出して「書いてはならない」と決定した。約五年間ほどの法廷係争に巻き込まれることになる
▼「えっ、そんなバカな」とブロック紙記者が業界機関紙で一応驚いたそぶりを示し「そうか、書くような新聞とみられたからか」と変な納得をして「そう見られてはならない」。事実よりも見てくれらしい。孤立無援。右翼街宣車に連日本社周辺を回られ〝褒め殺し〟にされ、訪問も受けた
▼沖縄返還の密約を報じて逮捕された元毎日新聞記者、西山太吉さんに似た様相を見た。逮捕当時、憲法違反だと支援に回った報道機関などは検察の冒頭陳述で「情を通じ」など外務省女性事務官から情報を入手した経緯を追及されて一斉に腰が引けた
▼国家間の密約問題が男女問題に変わり、特ダネを追う鬼畜とその犠牲になった被害女性の構図ができ、世論、マスコミは密約そっちのけで記者、新聞社を非難した。政府関係者が次々栄転する中、西山記者は毎日新聞を追われるがごとく去った
▼約30年後、米公文書館で密約は確認され、無償返還の陰で巨額が支払われことが明らかになった。沖縄復帰50年の昨年、基地の辺野古移転を巡る政府と沖縄県の争いは激しく、反対派は知事選、参院選で勝利し、七市長選で全敗した
▼外務省機密漏洩(ろうえい)事件、いわゆる西山事件での日本の姿は、いまも随所にちらつく。